1型糖尿病

カーボカウント #4. 〈Second meal effect,応用カーボカウントの実際,グルコーススパイク〉

カーボカウントとは
医師
医師
いよいよカーボカウント最終回だね!

最後は,実際の血糖コントロールにおける応用カーボカウントの考え方について,一緒に確認していこう.

お急ぎの方は,最後のまとめをチェックしてね!

医学生
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今まで学んだ知識がどう使われるのか,楽しみです!

カーボカウント#3. が気になる方はこちらからどーぞ!

カーボカウントとは
カーボカウント #3. 〈応用カーボカウント,ハネムーン期,糖質インスリン比,インスリン効果値〉この記事では,応用カーボカウントにおける糖質インスリン比,インスリン効果値の求め方について「わかりやすい」をテーマに解説しています....

脂肪毒性とSecond meal effect

応用カーボカウントの実際0
医師
医師
上図のような糖質インスリン比・インスリン効果値をもつ人について考えてみよう.
医学生
医学生
先生,朝だけどうして糖質インスリン比が小さいんですか?
医師
医師
いい質問だね.朝は生理的に糖質を処理しにくいよ.

朝の糖質を処理しにくい理由は2つある.

1つ目は,朝3-4時から分泌されるコルチゾール,成長ホルモンの影響を受け,血糖値が上がりやすい状態での食事だからだ.

医学生
医学生
コルチゾールや成長ホルモンはインスリンの基礎分泌だけでなく,追加分泌の日内変動にも関わっているんですね.
医師
医師
2つ目は,前日の夕食後から絶食が続くため,エネルギーを取り出そうと脂肪を分解する過程で,遊離脂肪酸(Free fatty acid;FFA)が産生され,高FFA血症での食事だからだ.
医学生
医学生
中性脂肪の分解で生じるFFAが,インスリン分泌不全・抵抗性を引き起こすことを「脂肪毒性」というんでしたね.

ホルモン変化や「脂肪毒性」の影響で生理的にインスリン抵抗性が増大する朝食に,過剰な糖質を摂取することは,高血糖の原因となりますね.

脂肪分解と脂肪毒性
医師
医師
朝に限らず,絶食が長く続いた後の食事では,脂肪が分解され高FFA血症となり,いつもより糖質を処理しにくい.

例えば,朝食をとらずに昼に初めての食事(First meal)をとる場合,脂肪が分解され続け,高FFA血症での昼食となるから,いつもより糖質を処理しにくく,昼の糖質インスリン比は小さくなるよ.

医学生
医学生
朝と違って昼の時間には,コルチゾールや成長ホルモンの影響は少ないですけど,朝食を食べなければ,昼であっても脂肪毒性により,インスリン抵抗性が増大しているんですね.
医師
医師
「高食物繊維かつ適量の糖質」を朝食にとることで脂肪分解が抑制され,高FFA血症ではなくなり,その次の食事(Second meal)ではインスリン抵抗性が低下し,糖質を処理しやすくなるよ(Second meal effect).
医学生
医学生
なるほど.朝は糖質を処理しにくいけど,朝にまったく糖質をとらないのも,Second meal effectを得られないから,健康的ではないんですね.
朝の糖質インスリン比は小さくなる

理由1.朝3-4時から分泌されるコルチゾールや成長ホルモンの影響

理由2.高FFA血症(脂肪毒性)の状態での食事(First meal)

 

Second meal effect・・・高食物繊維かつ適量の糖質を朝食に摂取することで脂肪分解が抑制され,その次の食事(Second meal)ではインスリン抵抗性が低下し,糖質を処理しやすい.

 

応用カーボカウントの実際

医師
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さあ!いよいよ実際の血糖コントロールを見ながら,応用カーボカウントの考え方を見ていこう.

糖質用インスリン

応用カーボカウントの実際1
医師
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上図では,朝食前血糖値 120 mg/dLと目標内の素晴らしいスタートだね.

ここから糖質量(Carbohydrate;C) 80gの朝食を摂取する場合,何単位の「糖質用インスリン」が必要?

医学生
医学生
朝の糖質インスリン比は8 g/Uだから,1単位の超速効型インスリンで8gの糖質を処理できるってことですね.

1単位で8gの糖質を処理できる人が,80gの糖質を処理するときは,80÷8=10単位のインスリン投与が必要ですね.

糖質用インスリン

投与する糖質用インスリン=摂取する糖質量÷糖質インスリン比

 

糖質をうまく処理できなかったときに考えること

応用カーボカウントの実際2
医師
医師
上図では,正しい糖質用インスリン投与ができたはずなのに,昼食前血糖値 210 mg/dLと高血糖になってしまったね.

昼食前高血糖の原因として,どんなことが考えられる?

医学生
医学生
う〜ん…例えば,朝から昼にかけていつもより運動量が少なくて,いつもより糖質を処理できなかったとか…

糖質量を80gと見積もったけど,見積もりが甘くて本当は100gもあって,処理しきれなかったとか…

そもそも,カーボカウント#3. で求めた糖質インスリン比の値が違っているとか…ですかね?

医師
医師
よく勉強して理解できているね!
医学生
医学生
糖質の処理が上手にできなかったときは「なぜうまくいかなかったのか」を考え,自分なりの仮説を立てて次につなげることで,糖質の処理に対する感覚が養われていきますね.
医師
医師
最初のうちは感覚や経験値が足りなくて高血糖や低血糖の原因がわからないこともあるかもしれないね.

また,残念だけど知識や経験では対策しきれない場合もあるよ.例えば,体調の違いや,胃の蠕動運動速度の違い,注射部位におけるインスリン吸収量の違いなど,様々な影響で血糖値は変動しうる.

医学生
医学生
「なぜうまくいかなかったのか」を考えても原因が見つからないときは,神経質になりすぎず「そういうこともある!」と受け入れることも,長く血糖値と付き合っていくときには大切なんですね.
糖質をうまく処理できなかったとき

1.運動量がいつもと違っていた.

2.糖質の見積もりの精度が低かった.

3.そもそも糖質インスリン比が違う.

1〜3. に該当しなさそうなら,深追いしないことも大切!

 

糖質用インスリン+補正用インスリン

応用カーボカウントの実際2
医師
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高血糖のまま昼食の時間になってしまったね.

昼食前血糖値 210 mg/dLから,糖質量 50gの昼食を摂取する場合,何単位の糖質用インスリンが必要?

医学生
医学生
昼の糖質インスリン比は12 g/Uだから,1単位の超速効型インスリンで12gの糖質を処理できるってことですね.

1単位で12gの糖質を処理できる人が,50gの糖質を処理するときは,50÷12=4.16≒4単位のインスリン投与が必要ですね.

応用カーボカウントの実際3
医師
医師
昼食前血糖値 210 mg/dLから,糖質による血糖上昇を4単位の糖質用インスリンが処理した場合,夕食前血糖値はいくつになると思う?
医学生
医学生
理論上は,夕食前血糖値 210 mg/dLになると思います.

このまま糖質を処理し続けるだけでは,イレギュラーが起きない限り,いつまでたっても高血糖が持続しますよね?

医師
医師
そのとおり!

ここでは,糖質用インスリンである4単位に加えて,目標血糖値まで下げるために必要な補正用インスリンを求めよう.

夕食前の目標血糖値は自分で好きな値に設定してね.

応用カーボカウントの実際4
医学生
医学生
夕食前の目標血糖値を110 mg/dLに設定すると,糖質を処理した後の血糖値 210 mg/dLから「血糖値を100 mg/dL下げる」必要がありますね.

インスリン効果値は50 mg/dL/Uだから,「血糖値を100 mg/dL下げる」ときは,100÷50=2単位のインスリン投与が必要ですね.

補正用インスリン

投与する補正用インスリン=目標までの⊿血糖値÷インスリン効果値

⊿血糖値・・・血糖値の変化量

医師
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昼食の糖質 50gを処理する糖質用インスリンとして4単位,血糖値を100 mg/dL下げる補正用インスリンとして2単位,合わせて6単位の超速効型インスリンを昼食直前に投与するのが,応用カーボカウントにおける正しい考え方だね!
投与する超速効型インスリン

投与する超速効型インスリン=糖質用インスリン+補正用インスリン

 

応用カーボカウントの実際5
医学生
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上図では,正しい糖質用・補正用インスリン投与ができたはずなのに,夕食前血糖値 60 mg/dLと低血糖になってしまいました.

この日は昼から夕にかけて運動量が多かったのかも…

医師
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本来なら低血糖に対して補食をするけど,ちょうど夕食の時間だから,今回は夕食と補食を兼ねることにしよう.

ここから糖質量 70gの夕食を摂取する場合,何単位の糖質用インスリンが必要?

医学生
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夕の糖質インスリン比は12 g/Uだから,1単位の超速効型インスリンで12gの糖質を処理できるってことですね.

1単位で12gの糖質を処理できる人が,70gの糖質を処理するときは,70÷12=5.83≒6単位のインスリン投与が必要ですね.

医師
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夕食前血糖値 60 mg/dLから,糖質による血糖上昇を6単位の糖質用インスリンが処理した場合,眠前血糖値はいくつになると思う?
応用カーボカウントの実際6
医学生
医学生
理論上は,眠前血糖値 60 mg/dLになると思います.

このまま糖質を処理し続けるだけでは,イレギュラーが起きない限り,いつまでたっても低血糖が持続しますよね?

医師
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そのとおり!ここでは,糖質用インスリンである6単位に加えて,目標血糖値まで上げる補正用インスリンを求めよう.

眠前の目標血糖値は自分で好きな値に設定してね.

応用カーボカウントの実際7
医学生
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眠前の目標血糖値を160 mg/dLに設定すると,糖質を処理した後の血糖値 60 mg/dLから「血糖値を100 mg/dL上げる(=血糖値を-100 mg/dL下げる)」必要がありますね.

インスリン効果値は50 mg/dL/Uだから,「血糖値を-100 mg/dL下げる(=血糖値を100 mg/dL上げる)」ときは,-100÷50=-2単位のインスリン投与が必要ですね.

医師
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昼食の糖質 50gを処理する糖質用インスリンとして6単位,血糖値を100 mg/dL上げる(=血糖値を-100 mg/dL下げる)補正用インスリンとして-2単位,合わせて4単位の超速効型インスリンを昼食直前に投与するのが,応用カーボカウントにおける正しい考え方だね!
応用カーボカウントの実際8
医学生
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血糖値を下げたいときに補正用インスリンを考えるのはイメージがつきやすいですけど,血糖値を上げたいときも補正用インスリンを考えるんですね.

眠前の血糖値は予定通り,160 mg/dLになりましたね.

医師
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「血糖値をX mg/dL上げる=血糖値を-X mg/dL下げる」という考え方が難しい場合には,「インスリンは打てば血糖値が下がるし,打たなければその分だけ血糖値が上がる」と理解していれば迷いにくいね.

上図のように,摂取する糖質に対して適切な糖質用インスリンを,目標血糖値との差に対して適切な補正用インスリンを打てるようになると,「生活様式に合わせた柔軟な糖質の分散」や「血糖値のイレギュラー」に対応できるようになるよ.

補正用インスリン

血糖値をX mg/dL上げる=血糖値を-X mg/dL下げる

血糖値を下げたい→計算した単位を糖質用インスリンに追加して打つ.

血糖値を上げたい→計算した単位を糖質用インスリンから減らして打つ.

 

血糖コントロールのテクニック

医師
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ここからは,必須の知識ではないけれど,知っておいた方がいい血糖コントロールのテクニックについて解説するよ.

グルコーススパイクを小さくする方法

糖質インスリン比が適切でも1
医学生
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上図では,朝食前と昼食前の血糖値が同じだから,適切な糖質用インスリンを投与した,と考えられますね.

でも,食後に一時的な高血糖(グルコーススパイク)ができています.これだと血糖値>180 mg/dLの時間帯に,血管はダメージを受けますね.

医師
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グルコーススパイクを小さくするには,インスリン投与タイミングを早める方法があるよ.

今まで食直前にインスリンを注射していて,グルコーススパイクができてしまう場合は,まずは食事5分前投与に変更して,グルコーススパイクが小さくなるか試してみよう.

糖質インスリン比が適切でも2
医師
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超速効型インスリンを「超」超速効型インスリンへ変更するのもいい方法だね.
カーボ量に合わせた超超速効型インスリン
医学生
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ベジファースト・カーボラスト(野菜から食べて糖質は最後に食べる)の徹底や,低GI食品の選択,食後の運動なども,グルコーススパイクを小さくするには有効な方法ですね.
グルコーススパイクを小さくするには

1.インスリン投与タイミングを早める

2.超速効型インスリンを「超」超速効型インスリンへ変更

3.ベジファースト・カーボラストや食後の運動

 

タンパク質や脂質には,2度打ちや一時基礎レート

医学生
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上図では,カツカレーを食べて,糖質量 135gに対して,糖質インスリン比 8g/Uだから,16.87≒17単位の糖質用インスリンを投与していますね.

その後,9時頃には血糖値が低下したけど,再び上昇しています.糖質量を甘く見積もってしまったのでしょうか?

厳密にはタンパク質や脂質も無視できない.
医師
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確かに糖質を甘く見積もりした可能性もあるけど,上図のようにタンパク質・脂質が血糖値に変換されるタイミングから血糖値が再上昇しているようにも見えるね.

カツカレーにはタンパク質・脂質(とくに脂質)が多く含まれるから,タンパク質や脂質の血糖上昇も無視できなくなってくるよ.

医学生
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焼き肉とかも代表的なタンパク質・脂質の多い食事ですね.
タンパク質・脂質に対して,2度打ちで対応
医師
医師
タンパク質や脂質は,糖質インスリン比のようなものが存在せず,どれだけ血糖値の上昇に関与しているかは,計算で求めることができないよ.

糖質を甘く見積もってしまい,食後高血糖になったときや,タンパク質・脂質による血糖値の再上昇を認めたときには,「目標血糖値との差」に対して補正用インスリン投与が有効だ.

タンパク質や脂質に対して,一時基礎レートによる対応
医師
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インスリンポンプを使用している人は,補正用インスリンによる2度打ちででもいいし,上図のように一時基礎レートを使って,あらかじめタンパク質や脂質による血糖上昇に対応することもできるよ.
医学生
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一時基礎レートによる基礎インスリンの増量については,目標血糖値まで血糖値が下がったところで中止して,元の基礎レートに戻してしまえばいいですけど,2度打ちについては,投与してしまうと後戻りができないので注意が必要ですね.
医師
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2度打ちする場合には,一つ前に投与した超速効型インスリンが体内にどれだけ残っているか(残存インスリン)を確認しよう.

インスリンポンプでは残存インスリン量が液晶モニタで確認できるけれど,インスリンポンプ以外では超速効型インスリンの持続時間から残存インスリン量を推定しなければいけないため,多少経験値が必要だね.

タンパク質・脂質への対応

2度打ちでは,残存インスリン量を推定して,少なめの単位投与を推奨.

一時基礎レートでは,血糖上昇を予想し,あらかじめ増量.

残存インスリン・・・一つ前に投与した超速効型インスリンが体内にどれだけ残っているか

医師
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長かったけど,基礎・応用カーボカウントに必要な知識はこれで網羅した.

この知識を頭にいれるのも大変だけど,頑張って覚えて使いこなせるようになれば,インスリン依存状態の糖尿病でも理想的な血糖コントロールを目指すことが可能になるよ.

まとめ

カーボカウント#4. まとめ

朝の糖質インスリン比が小さくなる理由

理由1.朝3-4時から分泌されるコルチゾールや成長ホルモンの影響

理由2.高FFA血症(脂肪毒性)の状態での食事(First meal)

Second meal effect・・・高食物繊維かつ適量の糖質を朝食に摂取することで脂肪分解が抑制され,その後の食事(Second meal)ではインスリン抵抗性が低下し,糖質を処理しやすい.

 

投与する超速効型インスリン=糖質用インスリン+補正用インスリン

投与する糖質用インスリン=摂取する糖質量÷糖質インスリン比

糖質をうまく処理できなかったときに考えるべき3つのこと

1.  運動量がいつもと違っていた.

2. 糖質量の見積もりの精度が低かった.

3. そもそも糖質インスリン比が違う.

1〜3. に該当しなさそうなら,深追いしないことも大切!

投与する補正用インスリン=目標までの⊿血糖値÷インスリン効果値

⊿血糖値・・・血糖値の変化量

血糖値をX mg/dL上げる=血糖値を-X mg/dL下げる

血糖値を下げたい→計算した単位を糖質用インスリンに追加して打つ.

血糖値を上げたい→計算した単位を糖質用インスリンから減らして打つ.

 

血糖コントロールのテクニック

グルコーススパイクを小さくする3つの方法

1.インスリン投与タイミングを早める.

2.超速効型インスリンを「超」超速効型インスリンへ変更.

3.ベジファースト・カーボラストと食後の運動

 

タンパク質・脂質の血糖上昇に対して補正用インスリン投与

2度打ち;残存インスリン量を推定して,少なめの単位投与を推奨.

一時基礎レート;血糖上昇を予想し,あらかじめ増量.

残存インスリン・・・一つ前に投与した超速効型インスリンが体内にどれだけ残っているか

参考文献;第8版 糖尿病専門医研修ガイドブック,はじめてのカーボカウント 4版

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