最後は,実際の血糖コントロールにおける応用カーボカウントの考え方について,一緒に確認していこう.
お急ぎの方は,最後のまとめをチェックしてね!
カーボカウント#3. が気になる方はこちらからどーぞ!
脂肪毒性とSecond meal effect
朝の糖質を処理しにくい理由は2つある.
1つ目は,朝3-4時から分泌されるコルチゾール,成長ホルモンの影響を受け,血糖値が上がりやすい状態での食事だからだ.
ホルモン変化や「脂肪毒性」の影響で生理的にインスリン抵抗性が増大する朝食に,過剰な糖質を摂取することは,高血糖の原因となりますね.
例えば,朝食をとらずに昼に初めての食事(First meal)をとる場合,脂肪が分解され続け,高FFA血症での昼食となるから,いつもより糖質を処理しにくく,昼の糖質インスリン比は小さくなるよ.
理由1.朝3-4時から分泌されるコルチゾールや成長ホルモンの影響
理由2.高FFA血症(脂肪毒性)の状態での食事(First meal)
Second meal effect・・・高食物繊維かつ適量の糖質を朝食に摂取することで脂肪分解が抑制され,その次の食事(Second meal)ではインスリン抵抗性が低下し,糖質を処理しやすい.
応用カーボカウントの実際
糖質用インスリン
ここから糖質量(Carbohydrate;C) 80gの朝食を摂取する場合,何単位の「糖質用インスリン」が必要?
1単位で8gの糖質を処理できる人が,80gの糖質を処理するときは,80÷8=10単位のインスリン投与が必要ですね.
投与する糖質用インスリン=摂取する糖質量÷糖質インスリン比
糖質をうまく処理できなかったときに考えること
昼食前高血糖の原因として,どんなことが考えられる?
糖質量を80gと見積もったけど,見積もりが甘くて本当は100gもあって,処理しきれなかったとか…
そもそも,カーボカウント#3. で求めた糖質インスリン比の値が違っているとか…ですかね?
また,残念だけど知識や経験では対策しきれない場合もあるよ.例えば,体調の違いや,胃の蠕動運動速度の違い,注射部位におけるインスリン吸収量の違いなど,様々な影響で血糖値は変動しうる.
1.運動量がいつもと違っていた.
2.糖質の見積もりの精度が低かった.
3.そもそも糖質インスリン比が違う.
1〜3. に該当しなさそうなら,深追いしないことも大切!
糖質用インスリン+補正用インスリン
昼食前血糖値 210 mg/dLから,糖質量 50gの昼食を摂取する場合,何単位の糖質用インスリンが必要?
1単位で12gの糖質を処理できる人が,50gの糖質を処理するときは,50÷12=4.16≒4単位のインスリン投与が必要ですね.
このまま糖質を処理し続けるだけでは,イレギュラーが起きない限り,いつまでたっても高血糖が持続しますよね?
ここでは,糖質用インスリンである4単位に加えて,目標血糖値まで下げるために必要な補正用インスリンを求めよう.
夕食前の目標血糖値は自分で好きな値に設定してね.
インスリン効果値は50 mg/dL/Uだから,「血糖値を100 mg/dL下げる」ときは,100÷50=2単位のインスリン投与が必要ですね.
投与する補正用インスリン=目標までの⊿血糖値÷インスリン効果値
⊿血糖値・・・血糖値の変化量
投与する超速効型インスリン=糖質用インスリン+補正用インスリン
この日は昼から夕にかけて運動量が多かったのかも…
ここから糖質量 70gの夕食を摂取する場合,何単位の糖質用インスリンが必要?
1単位で12gの糖質を処理できる人が,70gの糖質を処理するときは,70÷12=5.83≒6単位のインスリン投与が必要ですね.
このまま糖質を処理し続けるだけでは,イレギュラーが起きない限り,いつまでたっても低血糖が持続しますよね?
眠前の目標血糖値は自分で好きな値に設定してね.
インスリン効果値は50 mg/dL/Uだから,「血糖値を-100 mg/dL下げる(=血糖値を100 mg/dL上げる)」ときは,-100÷50=-2単位のインスリン投与が必要ですね.
眠前の血糖値は予定通り,160 mg/dLになりましたね.
上図のように,摂取する糖質に対して適切な糖質用インスリンを,目標血糖値との差に対して適切な補正用インスリンを打てるようになると,「生活様式に合わせた柔軟な糖質の分散」や「血糖値のイレギュラー」に対応できるようになるよ.
血糖値をX mg/dL上げる=血糖値を-X mg/dL下げる
血糖値を下げたい→計算した単位を糖質用インスリンに追加して打つ.
血糖値を上げたい→計算した単位を糖質用インスリンから減らして打つ.
血糖コントロールのテクニック
グルコーススパイクを小さくする方法
でも,食後に一時的な高血糖(グルコーススパイク)ができています.これだと血糖値>180 mg/dLの時間帯に,血管はダメージを受けますね.
今まで食直前にインスリンを注射していて,グルコーススパイクができてしまう場合は,まずは食事5分前投与に変更して,グルコーススパイクが小さくなるか試してみよう.
1.インスリン投与タイミングを早める
2.超速効型インスリンを「超」超速効型インスリンへ変更
3.ベジファースト・カーボラストや食後の運動
タンパク質や脂質には,2度打ちや一時基礎レート
その後,9時頃には血糖値が低下したけど,再び上昇しています.糖質量を甘く見積もってしまったのでしょうか?
カツカレーにはタンパク質・脂質(とくに脂質)が多く含まれるから,タンパク質や脂質の血糖上昇も無視できなくなってくるよ.
糖質を甘く見積もってしまい,食後高血糖になったときや,タンパク質・脂質による血糖値の再上昇を認めたときには,「目標血糖値との差」に対して補正用インスリン投与が有効だ.
インスリンポンプでは残存インスリン量が液晶モニタで確認できるけれど,インスリンポンプ以外では超速効型インスリンの持続時間から残存インスリン量を推定しなければいけないため,多少経験値が必要だね.
2度打ちでは,残存インスリン量を推定して,少なめの単位投与を推奨.
一時基礎レートでは,血糖上昇を予想し,あらかじめ増量.
残存インスリン・・・一つ前に投与した超速効型インスリンが体内にどれだけ残っているか
この知識を頭にいれるのも大変だけど,頑張って覚えて使いこなせるようになれば,インスリン依存状態の糖尿病でも理想的な血糖コントロールを目指すことが可能になるよ.
まとめ
朝の糖質インスリン比が小さくなる理由
理由1.朝3-4時から分泌されるコルチゾールや成長ホルモンの影響
理由2.高FFA血症(脂肪毒性)の状態での食事(First meal)
Second meal effect・・・高食物繊維かつ適量の糖質を朝食に摂取することで脂肪分解が抑制され,その後の食事(Second meal)ではインスリン抵抗性が低下し,糖質を処理しやすい.
投与する超速効型インスリン=糖質用インスリン+補正用インスリン
投与する糖質用インスリン=摂取する糖質量÷糖質インスリン比
糖質をうまく処理できなかったときに考えるべき3つのこと
1. 運動量がいつもと違っていた.
2. 糖質量の見積もりの精度が低かった.
3. そもそも糖質インスリン比が違う.
1〜3. に該当しなさそうなら,深追いしないことも大切!
投与する補正用インスリン=目標までの⊿血糖値÷インスリン効果値
⊿血糖値・・・血糖値の変化量
血糖値をX mg/dL上げる=血糖値を-X mg/dL下げる
血糖値を下げたい→計算した単位を糖質用インスリンに追加して打つ.
血糖値を上げたい→計算した単位を糖質用インスリンから減らして打つ.
血糖コントロールのテクニック
グルコーススパイクを小さくする3つの方法
1.インスリン投与タイミングを早める.
2.超速効型インスリンを「超」超速効型インスリンへ変更.
3.ベジファースト・カーボラストと食後の運動
タンパク質・脂質の血糖上昇に対して補正用インスリン投与
2度打ち;残存インスリン量を推定して,少なめの単位投与を推奨.
一時基礎レート;血糖上昇を予想し,あらかじめ増量.
残存インスリン・・・一つ前に投与した超速効型インスリンが体内にどれだけ残っているか
参考文献;第8版 糖尿病専門医研修ガイドブック,はじめてのカーボカウント 4版