医学生
なんとなくは分かります!動脈の内側の壁が傷ついて,そこにコレステロールがくっつくことで血管が狭くなったり硬くなったりするんですよね?
医師
そうだね.詳しい動脈硬化の形成メカニズムまで記憶しておく必要はないけれど,一度しっかり確認しておこう.
お急ぎの方は,最後のまとめをチェックしてね!
血管壁の構造
医師
まずは動脈の血管壁の構造について見よう.動脈の血管は内膜,中膜,外膜の3層構造になっているよ.平滑筋細胞をはさみこむように,内側に内弾性板,外側に外弾性板という弾性線維層が覆っている.
医学生
1層の血管内皮細胞と内弾性板をあわせて内膜,平滑筋細胞と外弾性板をあわせて中膜と呼んでいるんですね.血管内皮細胞が1層しかないのはちょっと不安です.
医師
そうだね,血管内皮細胞は1層しかないのに動脈にとっては大切な役割を果たしているよ.
血管内皮細胞の機能
医師
血管内皮細胞は,血管収縮因子や血管拡張因子,凝固阻止因子,線溶系因子を産生することで,血管の緊張性を調節し,血栓形成を抑制して,血管の恒常性(ホメオスタシス)を維持している.
医学生
有名なのは一酸化窒素ですよね.これらの機能が障害されることで,血管収縮が起きたり,凝固活性の亢進によって動脈硬化が進んでいくんですね.
非アテローム性動脈硬化
医師
動脈硬化にも色々あるよ.例えば,非アテローム性に分類されるMönckeberg(メンケベルク)型は基本的には加齢(50歳以上)によって生じる.中膜平滑筋細胞の巣状石灰化・中膜の萎縮により,血管内腔の“拡張”を生じることで,動脈瘤形成や解離の素因となる.
医学生
メンケベルク型はX線単純写真でも血管壁の石灰化がわかるって聞きました.石灰化が強くても血管内腔が狭窄しないのが意外です.
医師
一方で,メンケベルク型と違って細動脈硬化は,進行すれば血管内腔の狭窄を伴うよ.
細動脈硬化は糖尿病や高血圧に伴う遠位動脈の硬化だね.糖尿病では,硝子様動脈硬化(硝子様肥厚と細動脈壁の変性,内腔が狭窄することによるびまん性虚血),高血圧では,増殖性細動脈硬化;Hyperplastic arteriolosclerosis(中心性肥厚,ときにフィブリノイド沈着と血管壁の壊死;壊死性細動脈炎)が生じるよ.
細動脈硬化
糖尿病→硝子様動脈硬化(硝子様肥厚と再動脈壁の変性)→血管内腔狭窄によるびまん性虚血
高血圧→増殖性細動脈硬化(中心性肥厚,ときにフィブリノイド沈着と血管壁の壊死;壊死性細動脈炎)→血管内腔狭窄→末梢血管抵抗増大
医学生
細動脈硬化については,糖尿病や高血圧が血管内腔狭窄を引き起こし,血管内腔狭窄が末梢血管抵抗増大を引き起こし,末梢血管抵抗増大が高血圧を引き起こす負のループですね.
アテローム性動脈硬化
医師
さて,本題にもどろう.今回はアテローム性動脈硬化の発症メカニズムを中心に話すよ.
医師
アテローム性動脈硬化の主戦場は内膜だよ.高血圧や糖尿病,脂質異常,喫煙などを背景に,炎症性サイトカイン血症,インスリン抵抗性増大,レニン−アンジオテンシン系(RAA系)の活性化により血管内皮細胞が障害を受けるところからアテローム性動脈硬化は始まる.
医学生
1層しかない血管内皮細胞が障害されて,細胞同士の間に隙間ができていますね(血管透過性亢進).他にも,一酸化窒素を産生する能力が低下したり,血管内皮細胞に毛が生えたり(接着分子の発現),その毛に血小板が結合したり(凝固活性亢進),内膜の環境に多くの影響を与えていますね.
ROS;Reactive oxygen speciesっていうのは?
医師
ROS(活性酸素種)は,酸素が変化した化合物の総称だよ.様々な細胞に対して高い生理活性をもつことから細胞に損傷を与えうる存在だね.動脈内の酸素がROSに変化し,血管内皮細胞の隙間を通って,中膜平滑筋細胞にも障害が及ぶよ.
医学生
なるほど!ROSは高濃度の酸素によってできるから,動脈硬化はあっても血中酸素濃度の低い静脈では,静脈硬化っていうのはないんですね.
医師
そのとおりだね.動脈は血中酸素濃度の高さゆえ,ROS産生量が多く,血管内皮細胞の障害も起きやすい.
次に,障害された血管内皮細胞に単球が侵入してくるよ.
医師
血管内皮細胞に出現したVCAM-1(接着分子)と単球のもつVLA-4(白血球やリンパ球に発現するインテグリンファミリー分子 )が結合して,ローリングし,透過性の亢進した血管内皮細胞の隙間から単球が内膜に侵入するよ.ちなみに,単球が壁内に侵入するのを,血管内皮細胞や平滑筋細胞,マクロファージ(Mφ)から産生されるMCP-1(Monocyte chemoattractant protein-1),IL-8,M-CSF(Macrophage colony stimulating factor)が手助けしている.
単球は血中では単球のまま存在し,組織中ではマクロファージや樹状細胞へ分化する性質をもつんだった.今回,単球はマクロファージに分化しているね.当然,樹状細胞に分化する単球も存在して,強い抗原提示能力を発揮するよ.
医学生
マクロファージがやってくるってことは,これから炎症が起きるんですね.動脈硬化が血管の慢性炎症だと言われ,高感度CRPの上昇を認めるのは,マクロファージの関与があるからなんですね.Mφの下にM1って書いてあるのはなんですか?
医師
マクロファージには炎症作用のあるM1型と抗炎症作用をもつM2型があるよ.ここでは慢性炎症に関わるからM1型だね.
医師
マクロファージが貪食するものとして,酸化LDLがある.LDLのような小分子も血管内皮細胞の隙間から侵入し,血管内皮細胞や平滑筋細胞が産生したプロテオグリカンなどに結合し,内弾性板にとどまる.内膜にとどまることでROSによる酸化ストレスを受け,酸化LDLに変化するよ.
医学生
酸化LDLを貪食したマクロファージは,泡沫細胞と呼ばれるんですね.
医師
コレステロールや中性脂肪を多く含有して,見た目がアワアワになるから泡沫細胞と呼ばれているよ.酸化LDLを取り込む受容体はスカベンジャー受容体というから覚えておこう.泡沫細胞は自身でもアポトーシス,壊死性コアへ向かうし,抗原提示によって他の免疫細胞を活性化させる役割をもつ.
医師
泡沫細胞はもともとマクロファージだから抗原提示細胞(Antigen presenting cell ; APC)だね.MHC(HLA) class Ⅱによってnaive T細胞(一度も抗原と出会ったことのないT細胞)に抗原提示するよ.すると,naive T細胞はTh1細胞に分化し,細胞傷害性T細胞(キラーT細胞,CTL)を活性化させ,泡沫細胞をアポトーシスさせ,壊死性コアを形成する.
医学生
樹状細胞やマクロファージ,B細胞はHLA class Ⅱをもち,細胞性免疫や液性免疫などの獲得免疫の活性化へのきっかけになるんでしたね.
濾胞性ヘルパーT細胞は活性化しないんですか?
医師
良い質問だね.実は濾胞性ヘルパーT細胞はヒトの動脈硬化病変ではあまり認められないんだ.それどころか,濾胞性ヘルパーT細胞サイトカインであるIL-4は動脈硬化病変形成を抑制する可能性があるとさえ言われているよ.一方で,動脈硬化病変の進展に影響しないとの報告もあり,いまだに議論の余地があるところだね.
医師
今度は,中膜に存在する平滑筋細胞も内膜に増殖・遊走して,スカベンジャー受容体から酸化LDLを取り込む.もともと中膜に存在する平滑筋細胞は,分化型もしくは収縮型とよばれ,平滑筋型ミオシン重鎖などの収縮蛋白の発現量が多く,増殖能や遊走能は低いとされている.一方,内膜に遊走した平滑筋細胞は収縮蛋白の減少を認め,プロテオグリカンやグリコサミノグリカンに富む細胞外マトリックス(Extracellular matrix ; ECM)を産生している.
医学生
む,難しいです...つまり,ちょっと変わった性質をもつ平滑筋細胞が内膜に増殖・遊走しているってことですね.
医師
酸化LDLを取り込んだ平滑筋細胞は,抗原提示細胞ではないが,非自己であるため,マクロファージの食作用を受けるよ.マクロファージは抗原提示する能力があるから,再び細胞性免疫を活性化させるね.
医師
壊死性コアとならなかった平滑筋細胞はコラーゲンⅠ,Ⅲを主成分とする線維性被膜を生成し,プラークを安定化させる.
医学生
一方で,壊死性コアの上には線維性被膜がありませんね.被膜があったほうが安全そうですけど,このプラークは大丈夫なんでしょうか?
医師
大丈夫ではないね笑
平滑筋細胞の減少による線維性被膜の菲薄化やM1型マクロファージが産生するタンパク分解酵素(Matric metalloproteinase ; MMP-2, 9)によるコラーゲンや細胞外マトリックスの分解により,どんどん内膜が菲薄化していくことになる.これが不安定プラークと呼ばれる状態だね.
医師
また,泡沫化した平滑筋細胞を貪食したM1型マクロファージからは,TNF-α,IL-1β,BMP-2;Bone morphogenetic protein-2が分泌され,平滑筋細胞に作用し,ALPの発現や骨芽細胞の分化に関連する転写因子であるRunx2;Runt-related transcription factor 2を活性化させ,骨芽細胞様に分化することで,微小石灰化が生じる.
医学生
内膜に生じる石灰化は,メンケベルク型で生じる中膜の石灰化と異なり,M1型マクロファージの炎症性変化なんですね.
医師
そもそも,機序が違うんだね.でも,確かに内膜に生じる石灰化はM1型マクロファージが活性化している証明だけど,良い変化としても石灰化が生じる場合があるんだ.
医師
例えばスタチン(脂質改善薬 HMG-CoA還元酵素阻害薬)の投与がプラークの安定化に関わると言われているのは,炎症が落ち着いた内膜において,M1型→M2型マクロファージに切り替わり,壊死性コアを貪食したり,抗炎症サイトカインであるIL-10により石灰化を調節し安定化させたりする(安定化プラーク)ことができるからだ.
医学生
同じマクロファージでも全然作用の仕方が違うんですね.
医師
そうだね,以上,アテローム性動脈硬化の発症メカニズムを解説したよ.すべて覚える必要は全く無いけれど,メカニズムを知っておくと応用がきくよ.
医学生
動脈の内側の壁が傷ついて,そこにコレステロールがくっついて,とか言ってた自分がちょっと恥ずかしいです...
まとめ
アテローム性動脈硬化の形成メカニズム
①高血圧や糖尿病,脂質異常,喫煙など
②炎症性サイトカイン血症,インスリン抵抗性増大,RAA系の活性化
③血管内皮細胞機能障害→単球の浸潤・Mφへの分化
④M1型Mφが酸化LDLを貪食し泡沫細胞となる
⑤Th1細胞に抗原提示し,CTLの攻撃により壊死性コアとなる
⑥平滑筋細胞が内膜へ増殖・遊走し,線維性被膜を形成(安定化)
⑦酸化LDLを取り込んだ平滑筋細胞は泡沫化平滑筋細胞となる
⑧泡沫化平滑筋細胞はMφの食作用により壊死性コアとなる
⑨壊死性コア上は線維性被膜をもたない不安定プラークとなる
参考文献)第12版 朝倉内科学,第2版 好きになる免疫学