今日はカーボカウントを学ぶために必要な前提知識について,一緒に勉強しよう.
お急ぎの方は,最後のまとめをチェックしてね!
ヒトインスリン
ヒューマリンR®は「ヒトのインスリンそのもの」だからアレルギーが起きにくく,輸液内にも混注できるため,病棟では多く使用されているね.
一方で,皮下注すると6〜8時間程度インスリンとしての効果を発揮するため,炭水化物(糖質)の食後高血糖には対応できないというデメリットがあった.
インスリンアナログ
超速効型インスリン
有名なのはヒューマログ®(一般名 リスプロ)だね.リスプロは,ヒトインスリンのアミノ酸配列のLys(リジン),Pro(プロリン)が入れ替わったインスリンアナログだよ.
先生,インスリンアナログってなんですか?
持効型インスリン
アミノ酸配列の変化や,皮下で多量体を形成して徐々に溶解し血中に流れたり,血中でアルブミンに結合・徐々に血中に遊離したり,など企業によって様々な方法で24時間の血中濃度を実現しているよ.
インスリン基礎分泌と追加分泌
追加分泌・・・食事による血糖上昇に伴って分泌されるインスリン
基礎分泌・・・食事とは無関係に分泌されるインスリン
アナログ=類似物.ヒトインスリンを遺伝子組み換え技術により改良.
超速効型インスリン ・・・健常人の追加分泌を模倣
持効型インスリン ・・・健常人の基礎分泌を模倣
カーボカウントについて学ぶ前に必ず,基礎分泌を補充する役割をもつ「持効型インスリン」の調整を先に行わなければいけない(理由は後述).
ここからは基礎分泌についてもう少し詳しく見ていこう.
基礎分泌;食事とは無関係に分泌されるインスリン
この基礎分泌があるおかげで,血糖値は一定ですね.
血糖値を一定に調整するのは,インスリンだけですか?
グルカゴンの働き
そうならないように,膵α細胞から「グルカゴン」というホルモンが分泌され,肝臓に貯蔵した肝グリコーゲンを再びグルコースに変えて血糖値を一定に保つ仕組みがあるよ.
グルカゴンはインスリンの,インスリンはグルカゴンの拮抗ホルモンだね.拮抗ホルモン同士は片方の分泌が亢進しているときには,もう片方の分泌は抑制されており,シーソーのような関係性となっている.
血糖値を上げたい時にインスリンがたくさん分泌されていたら変だもんね.
特にインスリン基礎分泌は,状況に応じてダイナミックに変動し,血糖値の安定化に関わっていますね.でも先生,こんなにダイナミックに変動する基礎分泌を持効型インスリンで完璧に模倣することはできるのでしょうか?
0-3時頃は持効型インスリン過剰による血糖低下があるし,3-4時頃からの「暁現象」時には持効型インスリン不足による血糖上昇があるし…
インスリンポンプについて
インスリンポンプについては,また別の機会に解説するよ.メリット,デメリットを下に記載しておくから,興味があったら目を通すといいかもしれない.
次に,カーボカウントの前に必ず行うべき,持効型インスリンの調整方法について解説するよ.
カーボカウント前に必ず,持効型インスリンの調整
調整方法 1
これらの中で,「朝食前(空腹時)の血糖値」が「最も食事と無関係な血糖値」だということは,イメージつくかな?
でも,夕食を食べてから間食しなければ,次の朝まで絶食が続くし,朝食前(空腹時)の血糖値は一つ前の食事から最も遠い血糖値ですね.
そのため,朝食前(空腹時)の血糖値は,食事の影響をほとんど受けない,「最も食事と無関係な血糖値」と言えますね.
昼食前血糖値;昼食と昼食前の超速効型インスリンの影響を受ける血糖値
夕食前血糖値;夕食と夕食前の超速効型インスリンの影響を受ける血糖値
眠前の血糖値;夕食と夕食前の超速効型インスリンの影響を受ける血糖値
食事と無関係な朝食前(空腹時)の血糖値を確認しながら,食事とは無関係な基礎分泌を補う持効型インスリン量を決めるのは,自然な発想だね.
食事と無関係な朝食前(空腹時)血糖値→持効型インスリン投与量を決定
単位を変えるときは,何単位ずつ変えたら良いですか?
一度単位を変更すると,最低2〜3日は効果を様子見する方が,結果的に本当に必要なインスリン量を見極めやすいよ.
インスリン投与単位を変更してすぐに効果が出ないと,気持ち的には,またすぐに単位を変更したくなりますけど,「待ち」が正解の場合もあるんですね.「果報は寝て待て」ですね.
食事と無関係な朝食前(空腹時)血糖値→持効型インスリン投与量を決定
朝食前(空腹時)血糖値 100〜130 mg/dLを目標として
持効型インスリン 1〜2単位ずつ調整.
一度単位を変更したら,最低2〜3日は変えずに様子見.
残念だけど,これだけ知っていても不十分だ.もう一つ,持効型インスリンの調整方法を見てみよう.
調整方法 2
そこから翌日の朝食までは,持効型インスリンしか効いていない時間帯だね.
持効型インスリンのみが効果を発揮している夜間の血糖変動を確認
→夜間に血糖値が上昇・・・夜間の持効型インスリンが不足
→夜間に血糖値が不変・・・夜間の持効型インスリンが適切
→夜間に血糖値が低下・・・夜間の持効型インスリンが過剰
ここは個人差の問題で,夜間の血糖値が一定になるように持効型インスリン投与量を調整した場合に,日中の血糖値も都合よく一定になる人もいるよ.
ダイナミックに変動する基礎分泌の一番低いところを目安に持効型インスリン投与量を調整しているようなものだね.
でも先生,日中の持効型インスリン投与量が適切かどうか,はどのように確かめるんですか?
絶食試験
この時間帯に血糖値がどう変動するかによって,12時から夕食までの持効型インスリンが適切かどうかわかりますね.
僕は持効型インスリンが合っている場合でも,1〜2年に1回は絶食試験を行って補充量が適切か確かめるように,日々指導しているよ.
食事(朝,昼,夕のどれか)を絶食にし,超速効型インスリンを中止することで,持効型インスリンのみが作用している時間帯を作り出す方法
朝食を絶食+朝食直前の超速効型インスリンを打たない;朝から昼食まで持効型インスリンのみが効いている時間帯を作り出す
→朝から昼食までの持効型インスリン投与量を調整可能
昼食を絶食+昼食直前の超速効型インスリンを打たない;昼から夕食まで持効型インスリンのみが効いている時間帯を作り出す
→昼から夕食までの持効型インスリン投与量を調整可能
夕食を絶食+夕食直前の超速効型インスリンを打たない;夕から翌朝まで持効型インスリンのみが効いている時間帯を作り出す
→夕から翌朝までの持効型インスリン投与量を調整可能
まとめ
追加分泌;食事による血糖上昇に伴って分泌されるインスリン
基礎分泌;食事とは無関係に分泌されるインスリン
超速効型インスリン;健常人の追加分泌を模倣
持効型インスリン;健常人の基礎分泌を模倣
カーボカウントの指導対象;インスリンを使用している糖尿病
カーボカウント;「超速効型インスリン」の調整方法
カーボカウントの習得前に必ず,持効型インスリンの調整が必要
持効型インスリン 調整方法 1
食事と無関係な朝食前(空腹時)血糖値→持効型インスリン投与量を決定
朝食前(空腹時)血糖値 100〜130 mg/dLを目標として
持効型インスリン 1〜2単位ずつ調整.
一度単位を変更したら,最低2〜3日は変えずに様子見.
持効型インスリン調整方法 2
持効型インスリンのみが効果を発揮している夜間の血糖変動を確認
→夜間に血糖値が上昇・・・夜間の持効型インスリンが不足
→夜間に血糖値が不変・・・夜間の持効型インスリンが適切
→夜間に血糖値が低下・・・夜間の持効型インスリンが過剰
絶食試験
食事(朝,昼,夕のどれか)を絶食にし,超速効型インスリンを中止することで,持効型インスリンのみが作用している時間帯を作り出す方法
朝食を絶食+朝食直前の超速効型インスリンを打たない;朝から昼食まで持効型インスリンのみが効いている時間帯を作り出す
→朝から昼食までの持効型インスリン投与量を調整可能
昼食を絶食+昼食直前の超速効型インスリンを打たない;昼から夕食まで持効型インスリンのみが効いている時間帯を作り出す
→昼から夕食までの持効型インスリン投与量を調整可能
夕食を絶食+夕食直前の超速効型インスリンを打たない;夕から翌朝まで持効型インスリンのみが効いている時間帯を作り出す
→夕から翌朝までの持効型インスリン投与量を調整可能
参考文献;第8版 糖尿病専門医研修ガイドブック,はじめてのカーボカウント 4版