2型糖尿病

糖尿病教室 #2. 病態〈発症,分類,インスリン抵抗性,糖毒性〉

糖尿病教室 アイキャッチ
医師
医師
糖尿病教室 #1. 糖尿病とは?の続きを解説していくよ.

お急ぎの方は,最後のまとめをチェックしてね!

医学生
医学生
糖尿病教室#1. が気になる方はこちらからどーぞ!
糖尿病教室 アイキャッチ
糖尿病教室 #1. 糖尿病とは〈血糖値,インスリン,糖尿病食〉糖尿病を初めて学ぶ人に向けて,「わかりやすい」をテーマに解説しています.本記事を読めば血糖値,インスリン,糖尿病食などについて学べます....

糖尿病の発症;生活習慣と遺伝

糖尿病発症まで
医師
医師
膵β細胞量が50%まで減少した時,糖尿病を発症するとされているよ.実際には糖尿病を発症する約20年前頃から,徐々に膵β細胞は減ってきている.
医学生
医学生
20年も前から!昔の不摂生は時効じゃないんですか笑

私がスイーツを食べる時も,インスリンを無駄遣いして少しずつ膵β細胞は減っているのかな…

医師
医師
炭水化物(糖質)の過剰摂取は膵β細胞の疲弊につながるんだったね.

糖尿病は生活習慣の悪化による発症が多いけど,遺伝的に膵β細胞が少ないことも原因や背景因子になりうるよ.

医学生
医学生
日本を含むアジア人では,遺伝の影響も大きいと習いました.遺伝と生活習慣が50%ずつ関与して発症する糖尿病を2型糖尿病っていうんですよね.
医師
医師
そうだね.糖尿病の多くが2型糖尿病といわれているよ.この糖尿病教室でも2型糖尿病にフォーカスして解説している.

ただし,2型糖尿病はあくまでも除外診断だ.下図を見てね.

糖尿病の分類

糖尿病の分類 2型
医学生
医学生
糖尿病ってこんなに種類があるんですね.1つ1つ除外するのはすごく大変そう…
医師
医師
すべての除外は難しくても,頻度の多い疾患は念頭において診療する必要があるよ.

例えば,1型糖尿病や膵疾患(悪性腫瘍や慢性膵炎など),内分泌疾患,薬剤性などは除外すべき頻度の多い疾患だね.どれにも該当しないものを「2型糖尿病」と除外診断している.

医学生
医学生
1型糖尿病については,前に勉強しました!
1型糖尿病とは
1型糖尿病とは〈発症契機,分類,病態,抗GAD抗体〉この記事では,1型糖尿病の疫学,遺伝(HLA),発症契機,分類,病態,検査値などについて「わかりやすい」をテーマに概説しています....
医師
医師
1型糖尿病にも2型糖尿病にも共通しているのは,インスリンが不足しているという点だよ.

インスリンが高度に欠乏している場合,血糖値が上昇する一方,細胞内飢餓(細胞内に栄養が届かない)が生じる.

糖尿病とは
医学生
医学生
重症の糖尿病において体重減少を認めるのは,細胞に栄養が届かないからなんですね.
医師
医師
そうだね.インスリンが発見・開発・製剤化されるまで,インスリン欠乏にいたる1型糖尿病は,高度低栄養と高血糖により致死率 100%の疾患だった.

みぎ上図はレオナルド トンプソンという1型糖尿病を発症した14歳少年のインスリン投与前,投与後3ヶ月の写真だよ.

医学生
医学生
え!同一人物なんですか!?しかもたった3ヶ月…
医師
医師
1992年に,世界で初めてインスリンを投与された少年だね.

インスリン開発前は,少しでも長生きさせるために,1型糖尿病の治療として「飢餓療法」が行われていた.それは,当たり前だけど決して「療法」と言えるようなものではなかった.

医学生
医学生
飢餓療法…食べなければ血糖値は上がらないから長生きできるってことですか…
医師
医師
インスリン製剤がどれほどの人命を救ったかが分かるね.

彼は1935年に残念ながら気管支肺炎で短い人生を終えた.献体は,全身にアテローム性動脈硬化を認めていたそうだ.彼の膵臓はホルマリン保存され,現在もトロント病理学博物館に保管されているよ.

インスリン分泌不全とインスリン抵抗性

糖尿病の2タイプ
医師
医師
ひだり図のインスリン分泌不全が,高血糖と低栄養を引き起こすことはレオナルド トンプソン少年の話からも理解できたと思う.

そして,インスリン分泌不全を伴う糖尿病に対しては,膵島移植を除いてインスリン以外の治療方法はない.

インスリンの発見から100年と少し経った今でも,インスリンは糖尿病の第一線級の治療方法だね.

医学生
医学生
一方で,みぎ図の「インスリン抵抗性増大」は小さなインスリンが過剰に分泌され,細胞内には糖がたくさんありますね.これはどういう状態ですか?
医師
医師
糖の流れと一緒にインスリン抵抗性について見ていこう.

インスリン抵抗性と糖の流れ

インスリン抵抗性と糖の流れ1
医師
医師
小腸で吸収した糖がまず肝臓に向かうのは糖尿病教室#1.で話したね.
医学生
医学生
肝臓に向かう途中で脾静脈からインスリンが合流するんでしたね.今回の肝臓には脂肪が沈着(脂肪肝)しています.
インスリン抵抗性と糖の流れ2
医師
医師
脂肪肝では本来,糖の貯蔵能力が低下しているよ.貯蔵すべきところに脂肪がついて邪魔をしているからね.
医学生
医学生
冷蔵庫がいっぱいだとこれ以上詰め込めないですもんね.
医師
医師
それでも膵β細胞は無理やり詰め込もうと,過剰にインスリンを分泌しているね.この状態がまた,膵β細胞の無駄遣いにつながっているよ.
インスリン抵抗性と糖の流れ3
医師
医師
脂肪肝では,肝臓に貯蔵するはずだった糖まで全身の血管にめぐることで,食後高血糖の原因となるよ.
医学生
医学生
脳での糖利用は変わらないですね.
インスリン抵抗性と糖の流れ4
医師
医師
骨格筋に貯蔵した糖は運動にしか利用できないんだったね.
医学生
医学生
運動習慣がないと,糖が利用されないまま残っていますね.
医師
医師
残った糖に加えて,骨格筋量が少ないとそもそも糖が入るスペースも少ないね.

骨格筋量の減少は加齢や運動不足のみならず様々な疾患(神経疾患,筋疾患,薬剤性)で生じるよ.

医学生
医学生
それでも膵β細胞は無理やり詰め込もうと,過剰にインスリンを分泌していますね.この状態がまた,膵β細胞の無駄遣いなんですよね.
医師
医師
脂肪肝や運動不足,骨格筋量の低下により,行き場を無くした血糖値が血管内をさまようことでも高血糖になるんだね.

どの臓器でのインスリン抵抗性が主病態なのかは,脂肪肝や内臓脂肪,骨格筋量・筋力の確認を行うことで推察するよ.

医学生
医学生
なるほど,これが肝臓や骨格筋に生じるインスリン抵抗性なんですね.同じ糖1つを細胞内に届けるためにも,たくさんのインスリンが必要な場合もある,ってわかりました.
医師
医師
そのとおり!

ただし,このようなインスリン抵抗性があったとしても,この抵抗性を乗り越える程に潤沢な内因性インスリン分泌能がある場合には,糖尿病を発症しないことも覚えておこう.

医学生
医学生
強引に糖を細胞内に詰め込めば血糖値は正常に戻りますもんね.私のお部屋掃除のようです笑

糖毒性;高血糖→インスリン分泌不全→高血糖

糖毒性
医師
医師
インスリン抵抗性による高血糖が膵β細胞を疲弊させ,内因性インスリン分泌能が低下し,それによりさらなる高血糖をきたす負のループを「糖毒性」と呼んでいるよ.

「糖毒性」の状態になると,膵β細胞に過剰な負荷がかかることで,細胞死を起こしたり,一時的な機能低下の状態となる.すなわち,「インスリン分泌不全の病態が加わる」ということだね.

この負のループを断ち切るには,残念ながらインスリン治療しかないよ.

医学生
医学生
インスリン治療により,一時的な機能低下状態の膵β細胞をサルベージするんですね!
医師
医師
細胞死してしまった膵β細胞はもう救済できないけど,機能低下状態の膵β細胞はまだ間に合う.

インスリン治療により血糖値コントロールが良好な状態を維持すると,「糖毒性」が解除され,また膵β細胞が元気にインスリン分泌を再開し,およそ3ヶ月程度で急にインスリン治療が必要なくなることがあるよ.

医学生
医学生
インスリン治療は必ずしも始まったら一生注射しなきゃいけないって訳ではないんですね!

でも先生,インスリン治療を終了できる人と,継続が必要な人の違いは何ですか?

医師
医師
残存した内因性インスリン分泌能の違いだろうね.職場復帰する膵β細胞が多いほど,インスリン治療を離脱しやすい.

ただし,内因性インスリン分泌が残存していても,糖毒性を解除できないと,膵β細胞が職場復帰することはないよ.

医学生
医学生
なるほど.本当はインスリン治療を離脱できる能力があるにも関わらず,生活習慣の改善がないままダラダラと高血糖を続けていたら,何年インスリン治療を続けていても離脱できる日は来ないってことですね.

まとめ

糖尿病教室 #2. まとめ

約20年かけて膵β細胞数が半分になり,糖尿病を発症.

2型糖尿病:生活習慣50%,遺伝50%を原因として発症(除外診断)

糖尿病には,インスリン分泌不全とインスリン抵抗性の2病態がある.

糖毒性:抵抗性→高血糖→分泌不全→高血糖→分泌不全の負のループ

糖毒性解除にはインスリン治療と良好な血糖コントロールが必要.

参考文献)第8版 糖尿病専門医研修ガイドブック,第12版 朝倉内科学.

関連記事